ビッグデータやパーソナルヘルスデータを統合して
データ駆動型サイエンス/ヘルスケアを推進する時代にあってAIを使いこなすことが臨床・基礎を問わず必須になりつつあります。

そこで本シンポジウムでは予測科学としての臨床医学のフロンティアを
サイバニクス療法、胎児心電図の具体例から
疾患発症とその進展の動的モデルと因果モデルとの結合
そして次世代のAIと生命医科学の方向を見据えつつ
非線形理論に裏打ちされた複雑系の理論の実装化まで討議します。

座長:山海 嘉之 氏
 筑波大学 システム情報系 教授
  サイバニクス研究センター 研究統括
  未来社会工学開発研究センター センター長
 CYBERDYNE株式会社 代表取締役社長/CEO

コメンテイター:手良向 聡 氏
 京都府立医科大学 大学院医学研究科
 生物統計学 教授
ヘルスデータサイエンス学会 代表理事

オーガナイザー:福島 雅典
 LHS研究所 代表理事
 京都大学 名誉教授

PROGRAM

■Introductory Lecture: 山海 嘉之 氏(座長)

「人・AI-ロボット・情報系の融合 :Augmented Human の進化論的展望」

■Opening Remarks: 福島 雅典(オーガナイザー)

「開会の辞:要旨」
人類未曾有のただならぬ科学・技術革命の真っ只中にあって、私どもLHS研究所は文字通りラーニングヘルスソサエティーの建設に向けて最先端の臨床科学研究とその実践について新しい情報交流の場を提供してまいります。
本シンポジウムはその第一歩です。ZOOMウェビナーのチャット機能を用いて御参加いただけます先生方,皆様からご質問やコメントをお寄せいただき,活発な議論の場とできればと考えております。
皆様のご参加を心よりお願い申し上げます。

講演1 「医療の現場からメディカルAIを考える」

 木村 芳孝 氏 
 東北大学医学系研究科
  宮城県南先進地域医療開発医学講座 教授
 東北大学発ベンチャー
 株式会社アダンソンズ顧問・クラウドセンス顧問

講演内容抄録
AIは日常不可欠のアイテムとして生活の中にどんどん入り込んできている。空を飛ぶ車の開発や誰でも宇宙に行けるような近未来が目前になってきているような錯覚さえ覚える。ヘルスケア・医療の中でもAIを用いた機器開発競争は熾烈になっており、より精度の高い確実な診断法の開発が進んでいる。しかし、今のAIの出現ですべてが可能となる未来がやってくるのだろうか?

確かに、AIの出現で可能となった重要なものは多量なデータの分別技術であり、それは社会に強いインパクトを与えている。一方、なぜそのような結果が出るのかが分からないブラックボックスが予測や、結果の解釈性に大きな影を落としている。

医療の場合、患者さんが安心して病院にかかれるのは、納得のいく説明が検査数値と医師の話から分かるからである。“AIの結果あなたは癌だと分かりました。あなたの寿命はあと3カ月です。診断の根拠は分かりません。”と言われて納得する患者さんは何人いるだろうか?

AIが出来ることは、多量なデータの分別であって複雑なデータの解析ではないことに注意しなければならない。歴史的に見ても、複雑系の理論とAIの理論はほぼ同時期に双胎の理論として産声を上げた。複雑系を解釈する一つの手段としてAIが生まれたことを留意しなければならない。産業革命を起こす大きな起爆剤となった解析学の発達と力学の発達、それに裏打ちされ機械工学が発達したことを考えると、次に我々がやるべきことは非線形理論に裏打ちされた複雑系の理論の実装化ではないか。

本講演では、医療の現場での問題点と私の研究している胎児心拍変動の非線形系解析を中心にこの視点でAIの医療実装の難しさや問題点、今後のやるべきことを皆さんと一緒に探りたい。

■講演2 「ヘルスケア・医療におけるAI活用の課題」

 川上 英良 氏 
 理化学研究所 先端データサイエンスプロジェクト
  チームリーダー
 千葉大学 国際高等研究基幹 教授

<講演内容抄録>
近年、第三次AIブームを背景として、ヘルスケア・医療の現場においてもAI技術の導入が急速に進んでいる。第三次AIブームでは、深層学習を始めとする技術の進歩により、人間が知識やルールを教えるのではなく、AIが大量のデータから直接パターンやルールを学習できるようになった。ヘルスケア・医療の分野でも、大規模な画像データや経時的な電子健康・医療記録に基づいて、臨床医も上回る診断精度を達成するケースも出てきている。

しかし、一方でAIによる予測は、モデルがブラックボックス化し、予測の根拠が人間に理解できなかったり、データからのバイアスを受けたりする事例も報告されている。また、ヘルスケア・医療へのAI導入事例としては、ある時点のデータに基づく疾患の検知・診断が大部分である。一方、現代社会において問題となっている感染症や生活習慣病を始めとする疾患に対しては、ある時点で高精度に診断することよりも、疾患発症や病態進行の長期的な時間経過を理解・予測し、未然に重篤な変化を予防することが重要となる。

本講演では、ヘルスケア・医療におけるAI活用の課題を概観し、予防と個別化に向けた展開を議論したい。

■講演3 「医療AIのビジョン~これからどう発展させていくか」

 桜田 一洋 氏 
 慶應義塾大学医学部
  石井・石橋記念講座(拡張知能医学) 教授

<講演内容抄録
生命医科学の知識と臨床上の判断を結び付けるための、標準的な方法や概念は確立していない。生命医科学の知識は、分子や細胞などの構成要素に関する普遍的な因果関係から個体というシステムレベルの現象を説明することである。これに対して、臨床上の判断を行うには、個体レベルでの特異的な現象の推移を予測する必要がある。ミクロの普遍的な原理による説明と、マクロの特異的な現象の予測を結びつけるためのパラダイムシフトは、生命科学だけではなく、自然科学に共通する課題である。

予防の重要性は古くから指摘されてきた。治療を前提とした医学は、「病気から」研究が始めるのに対して、予防を前提とした医学では「病気まで」を研究しなければならない。同じ疾患に診断された患者さんでも予後は異なっている。病気が生じる過程はさらに多様である。予防医療を実現するには、この多様性を識別し、予測する必要がある。

人間には認知限界があり、高次元のデータから規則性を見つけることができない。因果関係という一対一の関係で物事を理解し、説明しようとするのは人間の認知特性と関係している。しかし、因果関係から健康や病気という非線形の複雑な現象をモデル化することはできない。これを克服する方法として機械学習や深層学習などのAIを利用することが検討されてきた。医療や福祉の分野ではラベルの付いた大量のデータを手に入れることが難しく、深層学習は十分に力を発揮できないでいる。そんな中で機械学習の有用性が再認識されている。例えば教師なしランダムフォレストで求めた症例間の距離を幾何学的に解釈することで、新たな疾患像が観察できる。アトラクターダイナミックスとして病気の発症を、地形図の形で可視化する方法の有用性も見出されてきた。しかし、機械学習や深層学習を用いて行われるパターン識別はデータに存しており、データの選択によって識別器にバイアスが生じるという問題がある。この問題を克服するため、我々は「因果の知識」と「状態の識別」を連結するための数学的方法を開発している。この枠組みによって説明可能なAIが実現できると考えている。

心身の状態を高精度に識別する診断だけでは、予防医療は実現できない。それは予防の本質が「病気を防ぐ」のではなく、「健康を維持」することだからだ。生命医科学では、生命現象を機械になぞらえてメカニズムによって説明してきた。この枠組みは、病気を故障した機械のように見なし、健康を故障がない状態と捉えてしまう。この枠組みでは「健康を維持」するためのコンセプトは生まれてこない。この課題を克服するには、人間ひいては生物を、その本来の姿である開放系としてモデル化することが必要となる。それは、推論に自然の原理を組み込むことである。その鍵を握るのが、生命システムを非線形振動子ととらえ、自然の多様で複雑な時空パターンを振動子の同期と非同期の選択によってモデル化する方法である。病気の発症、人間の一生、進化という生物の変化は、遺伝子プログラムと自然選択という機械になぞらえた方法で説明されてきた。開放系のモデルを導入することで、新たな概念が生まれる。

これからの生命医科学は、メカニズムに基礎を置く普遍的なミクロの原理と、開放系モデル記述される多様にして特異的なマクロの現象を結び付けることで発展する。それは情報科学と生命医科学の新たな統合によって実現する。

■Designated Remarks: 手良向 聡氏(コメンテイター)

「指定発言:要旨」
医療分野において、データに基づいて予測を行うための道具は整いつつありますが、 それらの道具を人間がどのような思想でどのように使うのかに大きな関心があります。

■Discussion

■Closing Remarks